日本家屋のリノベーション 足し算と引き算のデザイン
9月28日火曜日。アルバイト先の原浩二建築設計事務所の原さんに、リノベーションの現場に連れて行って頂いたので、そこでの学びを書き綴る。
線の足し算と引き算
設計デザインは線の足し算と引き算だと原さんは言う。モダンな空間は線が少なく緊張感がある。反対に生活感あふれる空間にモダンなデザインは調和しない。逆に生活感を許容するデザインというのが求められる。
お施主さんの生活スタイルがモダンでない空間の方がマッチすると思えば、線や素材の種類を増やすことで生活感を許容する。たとえお施主さんがモダンな空間を好んでも、必ずしもそれがいいとは限らず、その人たちと触れ合う過程で本当に合う生活スタイルと空間を探り当てていくそうだ。人それぞれに合う新たなスタイルをカルティベートしていく作業が建築家にとって重要なんだと思う。
日本の民家リノベーション=引き算のデザイン
線の足し算と引き算。生活感を抑えて、緊張感のある空間にしていく方法が引き算。逆に素材感や線(エッジ)などを増やしていくデザイン手法が足し算。 今回リノベーションに行って感じたのは、リノベーション前の日本の民家は非常に情報が多いということ。原さんによると、欄間や障子、大壁や格子など基本的に伝統的な日本の建物は「線」によって構成される。それ故引き算によるデザイン手法となる。リノベーションの醍醐味はここにあるのだという。
新築では現在、基本的には真壁工法で、柱や梁は見せないものが多く、障子や格子、欄間などは意図しないと使うことは少なく、全て一から構成するため足し算のデザインである。一方で、リノベーションでは何を残して何を削るのかという「残す」ことを主題に考えられるのだ。その家や家族にとって大事だった記憶というものを部分的に残して散りばめながら、機能や動線などをアップデートして新しいデザインを織り交ぜていく。
「生活の記憶を紡いでいく」という考え方
現代は空き家問題が広く浸透し、リノベーションというムーブメントは広く起こっていると思う。ただ、空き家を改修すること自体が全て善という考えには少し違和感を抱く。決して悪いわけではなく、世の中の動きとしては絶対に善だと思うが、近年のプロジェクトでは空き家を改修しているものの、そこにストーリーが浮かび上がってこないという例は多いような気がする。 けれど、既存の建物にはそれまで生活・活動されてきたという歴史が存在する。そこに「何を残すか」という、見えない記憶を紡いでいくような視点があれば、世の中の建物はもう少し人々に愛され、良くなっていくのでは。構造的に使える・使えないという視点だけで判断するのではなく、人々が営んできた生活の蓄積を建物に見出せるといいなぁと感じる。
(けれど、それほどお施主さんが既存建物に愛着を持っていなくて、建物としてもなかなか残す価値を見出せない場合は多々あるはず。それは割り切って考えてることもあるという。現実はいろいろ複雑だ。)
実施図面作成
新たに今週から図面作成の業務をさせてもらえることになった。
実施図面=建築の構成
今週からアルバイトで実施図面の作成をさせてもらえることになった。 実施図面が描けるようにならないと、建物のしくみを全て理解したとは言えない。ただし一通り描けるようになるには3年くらいはかかるらしい。 図面を構成する線には、定番の書き方が8割、設計事例によって違うものが2割程度存在するらしい。そして、その2割の中に設計事務所によって違う考え方から導かれた標準というのも存在する。ちなみに書いた線はそのまま建築の構成に繋がるので、書き方=建築の構成の仕方である。
建築は総合芸術
今回、その定番の書き方というのを教えてもらい、実際に基礎図面を作成した。図面というのは施工法、規格寸法、コスト、安全性、強度、そして意匠デザインという膨大な条件に基づいて描かれているということを教えて頂き、非常に学びが多かった。まさに総合芸術だと思った。これだから建築を考えるのは面白いんだ。
これまで研究で、図面を読み解く作業に多くを費やしてきたが、正直意匠デザインのこと以外はそれほど考えていなかった。建築が意匠だけで成り立っているということはあり得ないし、いい視点を得られたと思う。